色彩工学 (2) - 均等色空間
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目次
均等色空間
CIE 1931では色空間や色度図が定義され、複雑な光のスペクトルを色の座標値として扱うことができるようになった。
しかしそれらの色空間では、空間上の2点の距離は人の認識上の色の差(色差)を表現できているとは言えない。そこで、2点の距離が認識上の色差に近くなるような色空間あるいは色度図を定義しようと試みられるようになった。
CIE 1960 UCS色度図
まず人の認識上の色差についての法則を知るため、1942年にMacAdamはxy色度図上で同じ色と認識される範囲の大きさを調べる実験を行った。その結果をxy色度図上に示したものをMacAdam楕円と言う。
xy色度図上のMacAdam楕円 (10倍に拡大して描写)
MacAdam楕円がどの位置においても同じ大きさの正円となるような色度図(Uniform Color Space, UCS)が理想となるのだが、MacAdamは正円とまではいかなくてもxy色度図よりは色差の歪みが少ない次のuv色度図を提案した。この色度図は1960年にCIE 1960 UCS色度図として採用された。
\begin{align} \begin{cases} u &= \frac{4x}{-2x+12y+3} = \frac{4X}{X+15Y+3Z} \\ v &= \frac{6y}{-2x+12y+3} = \frac{6Y}{X+15Y+3Z} \\ \end{cases} \end{align}
uv色度図 (CIE 1960 UCS色度図)
uv色度図上のMacAdam楕円 (10倍に拡大して描写)
Eastwoodはより均等性を高めようとvを1.5倍したu'v'色度図を提案。この色度図も1976年にCIE 1976 UCS色度図として採用された。
\begin{align} \begin{cases} u' &= u \\ v' &= \frac{3}{2}v \\ \end{cases} \end{align}
u'v'色度図 (CIE 1976 UCS色度図)
u'v'色度図上のMacAdam楕円 (10倍に拡大して描写)
CIE 1964 UVW色空間
UCS色度図によってある程度は色度の差を数値で扱うことができるようになった。
次は光度\(Y\)に対応する均等な尺度を定義する。
Munsellは1905年に発表したMunsell表色系において、主観に基づいて色を色相(Hue)・明度(Value)・彩度(Chroma)の3つの値で整理した。3つの値の内、明度\(V\)は人間の認識上で均等な尺度(等明度尺度, ULS)となるよう定義されている。
1943年にアメリカ光学会は、明度\(V\)と光度\(Y\)との間に次の関係があることを見出した。
\begin{align} Y = 1.2219V - 0.23111V^2 + 0.23951V^3 - 0.021009V^4 + 0.0008404V^5 \end{align}
この関係は次のように近似することもできる。
\begin{align} Y = \left(\frac{10V + 17}{25}\right)^3 \\ i.e. 10V = 25Y^{1/3}-17 \end{align}
Munsellバリュー\(V\)と光度\(Y\)の関係
そこで、1963年にWyszeckiは次のU*V*W*色空間を提案した。
\begin{align} \begin{cases} U^* &= 13W^*(u-u_n) \\ V^* &= 13W^*(v-v_n) \\ W^* &= 25Y^{1/3}-17 \end{cases} \end{align}
ここで、\((u_n, v_n)\)は標準光源のuv色度座標。
\(W^*\)は\(10V\)に相当する等明度尺度である。\(U^*, V^*\)も均等な色度をスケール変換した値なので、\(U^*, V^*, W^*\)は全ての方向に対して均等な色空間となっていると言える。
U*V*W*色空間では2つの色座標の距離(色差)を\(l^2\)ノルム(Euclid距離)で定義している。
\begin{align} \Delta E = \sqrt{(U^*_1 - U^*_2)^2 + (V^*_1 - V^*_2)^2 + (W^*_1 - W^*_2)^2} \end{align}
この色空間は1964年にCIE 1964 U*V*W*色空間として採用された。
CIE 1976 LAB色空間
その後、U*V*W*色空間の他にも均等色空間は数多く定義された。
1976年にCIEはそれらの色空間を整理し、CIE 1976 L*a*b*色空間とCIE 1976 L*u*v*色空間を定めた。
CIE 1976 L*a*b*色空間は次のように定められる。
\begin{align} \begin{cases} L^* &= 116f\left(\frac{Y}{Y_n}\right) - 16 \\ a^* &= 500\left( f\left(\frac{X}{X_n}\right) - f\left(\frac{Y}{Y_n}\right) \right) \\ b^* &= 200\left( f\left(\frac{Y}{Y_n}\right) - f\left(\frac{Z}{Z_n}\right) \right) \\ \end{cases} \end{align}
ここで\(X_n, Y_n, Z_n\)は、\(Y_n=100\)と規格化された標準光のXYZ色座標。
また、関数\(f\)は次のように定義される。
\begin{align} f(p) = \begin{cases} p^{1/3} &\qquad (p > \left(\frac{6}{29}\right)^3) \\ \frac{1}{3}\left(\frac{29}{6}\right)^2p + \frac{2}{3}\frac{6}{29} &\qquad (p \leq \left(\frac{6}{29}\right)^3) \end{cases} \end{align}
関数f
色差はU*V*W*色空間と同じように\(l^2\)ノルムで定義される。
CIE 1976 LUV色空間
CIE 1976 L*u*v*色空間は次のように定められる。
\begin{align} \begin{cases} L^* &= 116f\left(\frac{Y}{Y_n}\right) - 16 \\ u^* &= 13L^*\left( u' - u'_n \right) \\ v^* &= 13L^*\left( v' - v'_n \right) \\ \end{cases} \end{align}
ここで、\(u'_n, v'_n\)は標準光のu'v'色度座標。
色差はU*V*W*色空間と同じように\(l^2\)ノルムで定義される。
参考
- 大田登 - 色彩工学
- Günther Wyszecki, W. S. Stiles - Color Science: Concepts and Methods, Quantitative Data and Formulae